以前、白背景でのフィギュアの撮り方を紹介しましたが、今回は黒背景でのフィギュアやガンプラなどの撮り方を紹介します。あくまで「うちの環境ではこう撮っている」というだけですのでこれが正しい黒背景の撮り方というわけではありません。被写体の形状やライティングによっても最適解は変わってくると思いますのであくまで例としてお読みいただければと思います。
なお、ここで言う黒背景とは背景を完全な黒(#000000)で撮ることを指します。
白背景と黒背景はどちらが難しい?
個人的には同じくらいか白背景の方が難しいかなと思っていますが黒背景の方が手間はかかると思っています。というのは白背景に比べて黒背景はゴミが非常に目立つため、ゴミ対策を怠ると現像やレタッチの際に非常に時間をかけることになってしまうからです。
また、黒背景に限ったことではないですが備品の取り扱いもシワや汚れ、傷などに注意を払う必要があるためそういったことに神経質になりたくない人にはあまり向いてないかなと思います。
黒背景の失敗例
恐らく何の工夫もせずに黒い何かで写真を撮っても完全な黒背景にはなりません。
まずはカメラのモードをオートにして室内照明で PVC の黒シートにアールを付けて撮ってみた例です。SNS とかでも見かけますが撮影ボックスで撮るとこうなりやすいかもしれません。見た目よりも断然明るく写っているのですが、これはカメラが「黒背景=暗い」と判断してしまい露出を上げてしまうからです。ついでに床にホコリも散らばっているのも白背景ならわかりませんが黒背景だと丸わかりです。
黒背景の場合にオートモードで露出を合わせる方法は下記の記事で少し紹介していますが、基本的にマニュアルで撮る方が良いでしょう。
https://mattintosh-note.jp/entry/20240911/1726064978mattintosh-note.jp
次は室内照明を付けたままで撮影用の照明を追加した状態です。こちらも撮影モードはオートで、カメラの設定にもよりますがフラッシュを有効にした状態でオートモードだとシャッタースピードが 1/60 秒になります。撮影用照明の方が目立っていますが、室内照明も写っている状態(ミックス光)になっています。
次はカメラのモードをマニュアルにして撮影用照明だけにした状態です。顔の部分の露出はマシになりましたが他にも色々と見直すべき点はありますね。
背景を黒く撮るためのコツ
黒いものが黒くならないのは単純に光が当たっている(何かが反射している)からです。
下記の画像は Twitter に投稿したときのもので本記事の話の流れとは合っていないかもしれませんがせっかく作ったので説明用に使います。
仮に奥行きが無限に存在した場合、反射するものがなくカメラに入ってくる光が無いため背景は真っ黒(真っ暗)になります。撮影ボックスを使っている場合は厳しいと思いますが、テーブル等を撮影台に使っている場合は背景から照明を離せば離すほど背景は黒くしやすくなります。離すと言っても一般の家庭では限度があるのである程度離した上で更に黒い紙や布を貼ると良いでしょう。
照明を被写体に近づけて光の広がりを抑えたり、照明を近づけることで光量を抑えたりするのも手だと思います。下記の例ではわかりやすく柄入りの背景を使用しています。背景と床はそのままで被写体の位置、照明の高さ、光量を変えています。被写体を背景にベタ付けから 40 cm ほど手前に持ってきていますがこれだけでもだいぶ違いがあるのがおわかりいただけると思います。
なお、サイズにもよりますがディフューザー部分を被写体に近づけることで斜めからの光が入ってくるため印象も変わります。もし照明の印象を変えたくない場合は黒画用紙などをバーンドアに見立てて光を切ったりすれば良いと思います。
黒背景の素材
黒い素材には色々あります。ケント紙は安価で入手もしやすいのですが背景との距離が取れない場合は光が反射してしまうので完全な黒を出すのが難しいです。PVC も入手はしやすいですがそのうち歪んで波打ちが起きるのであまりおすすめはしません。
- 画用紙
- ケント紙
- ウーペ(厚紙にレーヨン繊維を植毛したもの)
- PVC
- プラダン
- アクリル、塩ビ
- 無反射植毛布
下記はケント紙を使った例ですがそれなりに反射しますし肌目も綺麗ではありません。
経験上は無反射植毛布が最も反射が少ないです。無反射植毛布は以前 Amazon でいつでも買えたのですが最近は在庫切れになっていることがあるようです。
背景と床の配置
背景紙にアールを付けるか付けないかという話ですが、アールを付けると弧になっている部分が反射するので私は直角の方が良いと思います(照明の配置にもよりますが)。下記は Blender でシミュレーションしてみたものですが、左側のアール付きの方は照明が写り込んでいるのがわかると思います。黒背景の写真でフィギュアの足元付近に横方向の明るい線が入っているのはこれですね。
理想的な背景と床の配置はこんな感じになると思います。
我が家は現状こんな感じです。背景は無反射植毛布でその裏側にあるのはケント紙ですがかなり黒の出方が違うのがわかると思います。床に光沢のものを使用する場合は撮影の角度的に背景が写り込みますので背景が黒になっていなければ床も黒になりません(よく見ると無反射植毛布の反射部分とケント紙の反射部分で黒のレベルが違うのがわかります)。
直角の方がいいとは言いましたが、光陽オリエントジャパンさんの無反射植毛布は結構優秀なのでこれ一枚を L 字にしてもほとんどの場合は問題無いと思います。
黒背景撮影であると良いもの
通常の撮影ではそこそこ大きいソフトボックスなりを使って柔らかい光を表現したりすることが多いと思いますが、黒背景の撮影では光を当てる部分を限定していくため撮り方が異なります(スペースの都合とか撮り方とかで違うので必ずしもそうとは言いませんが)。
黒背景ではレフ板がかなり活躍することになるので用意しておくと良いと思います。
ソフトボックスやリフレクターを使っている場合はグリッドがあると光に指向性を与えることが出来ます。これからソフトボックスを買う場合はグリッド付きのものをおすすめします。
リフレクター用のグリッドはメーカーで微妙にサイズが違うので注意が必要です(シュアーテープとかで固定出来なくはないです)。
他にもゴミの処理にブロアーや養生テープなどの粘着性の低いテープがあると良いと思います。
カメラのセッティング
ISO は固定で出来るだけ下げておきましょう。
定常光でオートモード OR セミオートモード
大抵は測光モードがマルチ測光(キヤノンでは評価測光)になっているはずなので スポット測光 にしておきましょう。これでフォーカスポイント(被写体)の明るさを基準にカメラが設定を調整してくれます。ただし、被写体が小さい場合は黒背景に引っ張られる可能性があります。カメラの測光で希望の露出にならない場合は露出補正機能を使って -1 EV など適宜調整します。
測光方式ごとの違いは下記の記事で紹介しています。
https://mattintosh-note.jp/entry/20240911/1726064978mattintosh-note.jp
マニュアル
白背景とは異なり、背景に光が当たっていない状態であれば背景の明るさは無視出来るので単純に被写体の露出に専念していいと思います。光が当たってしまう場合はまずは被写体無しの状態で黒背景がきちんと黒になるようにヒストグラムを見ながら調整しましょう。
ミラーレスカメラではライブビュー表示を明るく補正する機能が搭載されている機種があり、定常光の場合はプレビュー時と仕上がりで明るさが変わって扱いにくいことがあります。機種によってはこの機能をオフにすることができます(ちなみに LUMIX だと常時プレビューという機能をオンにします)。
撮影例
本番なら照明に黒画用紙のフラップを付けたりしてしっかり光を切るのですが今回は簡易撮影なので付けていません。
こちらは以前レビューの際に撮影したもの。
ライティングについては下記の記事に例を載せてあります。
https://mattintosh-note.jp/entry/20240926/1727290415mattintosh-note.jp
写真の現像について
真っ黒に撮っているつもりでも実際に現像してみると真っ黒(#000000)になっていないことがあります。Adobe Lightroom の場合は「黒レベル」を下げたりトーンカーブをいじることで完全な黒に出来ます。完全な黒になっているかどうかはキーボードの J を押してクリッピングインジケーターの表示を切り替えて確認します。
Photoshop の場合はレベル補正で背景部分を黒点に設定することで真っ黒にできます。ただし、背景がそれほど黒く無い場合に黒点に設定してしまうと全体の明るさに影響が出るので注意してください。
Lightroom でゴミを除去する場合はツール使用中にキーボードの A を押すことで「スポットを可視化」することが出来ます。肉眼ではほとんど見えないようなゴミも発見できます。
真っ黒に執着しすぎない
ここまで書いておいて何ですが別に真っ黒にする必要は無いとも思っています。黒いものを黒く撮るスキルというのは持っていて損はありませんが、環境によってはどう頑張っても厳しいこともあります。「黒っぽい背景」なら大理石調の背景紙や、ベロア系の布を使っている方が写真としてはお洒落だったりもしますのでそういった選択をするのもアリだと思います。
何なら私は最近は真っ黒よりダークグレーぐらいが好きです。
おまけ)アクリルに傷が…
黒アクリルの傷はとても目立ちやすいです。私はたまにアクリサンデーの研磨剤で磨いています。磨くときは柔らかい布で磨きましょう。
それでは〜